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「太平記」赤坂城軍の事(その9)

懸かりければ、正成まさしげ諸卒に向かつて云ひけるは、「このあひだ数箇度すかどの合戦に打ち勝つて、敵を亡ぼす事数を不知といへども、敵大勢おほぜいなれば敢へて物の数ともせず、城中すでに糧尽きて助けのつはものなし。元より天下てんか士卒じそつに先立つて、草創さうさうの功を心ざしとする上は、節に当たり義に臨んでは、命を可惜にあらず。しかれども事に臨んで恐れ、はかりごとを好んで成すは勇士のするところなり。さればしばらくこの城を落ちて、正成自害したるていを敵に知らせんと思ふなり。そのゆゑは正成自害したりと見及ばば、東国勢定めて悦びを成して可下向。下らば正成打つて出で、また上らば深山みやまに引き入り、四五度がほど東国勢を悩ましたらんに、などか退屈せざらん。これ身をまつたうして敵を亡ぼす計略なり。面々いかん計らひ給ふ」と云ひければ、諸人皆、「可然」とぞ同じける。




こうして、正成(楠木正成)が諸卒([兵士])に向かって言うには、「この間数箇度の合戦に打ち勝って、敵を亡ぼすこと数を知らずといえども、敵は大勢であるから物の数ともせず、城中すでに糧が尽きて助けの兵もいない。元より天下の士卒([武士])に先立って、一番の功を願っているのだから、時節に当たり義に臨んで、命を惜しむものではない。けれども不意の出来事に恐れ、謀略を好んでなすのが勇士というものである。ならばしばらくこの城を落ちて、この正成が自害したように敵に思わせようと思うのだ。その訳はこの正成自害したと見れば、東国勢はきっとよろこんで下向するに違いない。東国勢が下るのを待ってこの正成が打って出て、また東国勢が上れば深山に引き籠もり、四五度ほど東国勢を翻弄すれば、きっと東国勢は気力を失うことだろう。これこそ身をもって敵を亡ぼす計略なのだ。面々よどう思われる」と言うと、諸人は皆、「そうしよう」と同意しました。


続く
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by santalab | 2014-06-08 08:59 | 太平記 | Comments(0)

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