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「太平記」赤坂城軍の事(その11)

正成長崎がむまやまへを通りける時、敵これを見付けて、「何者なれば御役所の前を、案内も申さで忍びやかに通るぞ」と咎めれけば、正成、「これは大将の御内の者にて候ふが、道を踏みたがへて候ひける」と云ひ捨てて、足早にぞ通りける。咎めつる者、「さればこそ怪しき者なれ、いかさま馬盜人むまぬすびとと思ゆるぞ。ただ射殺せ」とて、近々と走り寄つて真直中まつただなかをぞ射たりける。その矢正成がひぢの懸かりに答へて、したたかに立ちぬと思へけるが、素肌なる身に少しも不立して、はずを返して飛びかへる。後にその矢の痕を見れば、正成が年来信じて奉読観音経くわんおんきやうを入れたりける膚の守に矢当たつて、一心称名いつしんしようみやうの二句のに、矢先留まりけるこそ不思議なれ。




正成(楠木正成)は長崎(長崎高貞たかさだ?)の厩の前を通っていると、敵がこれを見付けて、「何者だ役所([戦陣で、各将士が本拠とする詰所])の前を、挨拶もせずに忍び通るのは」と尋問したので、正成は、「わたしは大将の身内の者ですが、道を間違えたようです」と言い捨てて、足早にぞ通り過ぎようとしました。尋問した者は、「やはり怪しい者だ、きっと馬泥棒だろう。射殺してしまえ」と言って、近々と走り寄って真ん中を狙って矢を射ました。その矢は正成の臂のかかりを射通し、したたかに刺さるように見えましたが、体に立つことなく、筈([矢筈]=[矢の矢羽側にある切り込み])を返して跳ね返りました。後にその矢の痕を見れば、正成が年来信じて読んでいた観音経を入れた膚のお守に矢が当たって、一心称名(困ったときに観音様の名前を一心に称えればの意)の二句の偈([法文])に、矢先が止まっていましたが不思議なことでした。


続く
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by santalab | 2014-06-08 09:42 | 太平記 | Comments(0)

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