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「太平記」新将軍帰洛の事付擬討仁木義長事(その2)

その頃畠山はたけやま入道にふだう道誓だうせいが所に、細川相摸のかみ・土岐大膳だいぜん大夫たいふ入道にふだう・佐々木の佐渡の判官はうぐわん入道以下、日々寄り合ひて、この間の辛苦を忘れんとて酒宴・茶の会なんどして夜昼遊びけるが、かたみに無隔心ほどを見て後に、畠山入道密かにその衆中にささやきけるは、「今は何をか可隠申。道誓今度東国より罷り上りさうらひつる事、南方の御敵退治の為とは申しながら、むねとは仁木につき右京うきやうの大夫義長よしなが過分くわぶんの振る舞ひをしづめんが為にて候ひき。方々も定めてさぞ被思召候ふらん。彼が心ばへかつて一家いつけをも可治者とは不見。しかるを今非其器用四箇国の守護職をたまはり、差したる忠なくして、数百すひやく箇所の大圧を領知す。外には不敬仏神、朝夕狩りかりすなどりを為業内には将軍のおほせをかろんじて毎事不拘成敗。されば今度南方退治たいぢの時も、敵の勝つに乗る時は悦び、御方の利を得るを聞きては悲しむ。これはそも勇士の本意とや可申、忠臣の振る舞ひとや可申。将軍尼崎に御陣を被取二百余日に及びしに、義長よしなが西宮に居ながら、一度も不出仕、一献を進ずる事もなかりしかば、何にそもかかる不忠不思議の者に大国を管領せさせ、大庄を塞がせては、世のをさまると言ふ事や候ふべき。ただこのついでに仁木を被退治、宰相さいしやう中将ちゆうじやう殿の世務せいむを被助申候はば、故将軍も草の陰にては、嬉しくこそ被思召候はんずらめ。方々はいかが被思召候ふ」と問ひければ、




その頃畠山入道道誓(畠山国清くにきよ)の所に、細川相摸守(細川清氏きようぢ。室町幕府二代将軍足利義詮よしあきらの執事)・土岐大膳大夫入道(土岐頼康よりやす)・佐々木佐渡判官入道(佐々木道誉だうよ)以下の者たちは、日々寄り合って、この南北朝時代の辛苦を忘れようと酒宴・茶会などを催して昼夜遊んでいましたが、互いに隔心がないことを知った後に、畠山入道(道誓)が小声でその者たちにささやいて、「今は何も隠すことなく申しましょう。わたし道誓が今度東国より京に上ったのは、南朝の敵を退治するためと申しておりましたが、本当のところは仁木右京大夫義長(仁木義長)の分に過ぎた振る舞いを鎮定するためなのです。あなた方もきっと同じように思われていることでしょう。義長の度量では一家さえも統治できるようには思えません。そのような者が器用([優れた才能のあること])もなく四箇国の守護職([諸国の治安・警備に当たる者])を与えられ、大した功績もないのに、数百箇所の大圧を領知([土地を領有して支配すること])しています。幕府外では仏神を敬うことなく、朝夕狩りや漁ばかり内では将軍の命を軽んじて毎度のことながら成敗([執政])には無関心です。そういう者ですから今度の戦で南朝退治の時も、敵が勝てばよろこび、味方が有利だと聞けば悲しむのです。これが勇士の本意([本質・あり方])でしょうか、忠臣の振る舞いと言えるでしょうか。将軍(足利義詮)が尼崎(現兵庫県尼崎市)に陣を構えて二百日余りになるというのに、義長は西宮(現兵庫県西宮市)に居ながら、一度も出仕もせず、一献(酒宴)を開くこともありません、何をとってもこのような不忠不思議([どうしてなのか、普通では考えも想像もできないこと])の者に大国を管領させ、大庄を支配させては、この世が治まるとはとても思えません。わたしが京に上った今仁木(義長)を退治し、宰相中将殿(足利義詮)の世務を助けることができたなら、故将軍(室町幕府初代将軍足利尊氏。義詮の父)も草葉の陰で、うれしく思われることでしょう。方々はどう思われますか」と訊ねました、


続く
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by santalab | 2014-06-10 07:39 | 太平記 | Comments(0)

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