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「太平記」義貞夢想の事付諸葛孔明事(その2)

ここに斎藤七郎しちらう入道道献だうけん、垣を阻てて聞きけるが、眉をひそめてひそかに云ひけるは、「これ全くめでたき御夢にあらず。すなはち天の凶を告ぐるにてあるべし。その故は昔異朝いてうに呉の孫権そんけんしよく劉備りうび曹操さうさうと云ひし人三人、支那四百州を三つに分けてこれを保つ。その心ざし皆二つを亡ぼして、一つに合はせんと思へり。しかれども曹操は才智世に勝れたりしかば、はかりこと帷帳ゐちやうの内に廻らして、敵を方域はうゐきの外に防ぐ。孫権は弛張ちちやう時あつて士をねぎらひ衆を撫でしかば、国を賊しまつりごとかすむる者きほひ集まつて、よこしまに帝都ををかし奪へり。劉備は王氏を出でて遠からざりしかば、その心仁義に近くして、利慾を忘るるゆゑに、忠臣孝子四方しはうより来たつて、文教をはかり武徳を行ふ。この人智仁勇の三徳を以つて天下てんがを分けて持ちしかば、呉魏蜀の三都相並あひならんで、かなへの如くそばたてり。




ここに斎藤七郎入道道献という者が、垣を阻てて聞いていましたが、眉をひそめて声をひそめて言うには、「これはいい夢ではないぞ。これは天が凶を告げる夢じゃ。その故は昔異朝([中国])に呉の孫権・蜀の劉備・魏の曹操という三人が、支那四百州を三つに分けて領土としておった(後漢後の三国時代)。各々の思いは皆他の二国を亡ぼして、国家を統一したいと思っておったのじゃ。けれども曹操は才智世に勝れておったので、謀略を帷帳([本陣])の内に廻らして、敵を方域([国内])の外で防いだ。孫権は弛張([寛大にすることと厳格にすること])を使い分けて兵を労い民衆を大切にしたので、国を亡ぼし政を掠奪しようとする者が競うように集まって、非道な方法で帝都に侵略し奪い取った。劉備は王氏を離れて遠くなければ(劉備は前漢の初代皇帝劉邦の子孫だと言っていたらしい)、仁義を重んじて、利慾を捨てたので、忠臣孝子が四方より集まり、文教([学問や教育によって人心を導くこと])によって武徳([武士として守るべき徳義])を手に入れたのじゃ。この者たちは智仁勇の三徳をもって天下を分け持ち、呉魏蜀の三都はそれぞれ、鼎([古代中国で用いられた円形三足の器])のように並立しておったのじゃ。


続く
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by santalab | 2014-06-10 08:10 | 太平記 | Comments(0)

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