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「太平記」義貞夢想の事付諸葛孔明事(その6)

これによつて魏の兵皆戦はんとふに、仲達ちうたつ不可なりと云ひてこれを許さず。ある時仲達蜀の芻蕘すうぜうどもをとりこにして、孔明こうめいが陣中の成敗をたづね問ふに、芻蕘ども答へて云ひけるは、『蜀の将軍孔明士卒を撫で、礼譲れいじやうを厚くし給ふ事疎かならず。一豆いつとうの食を得ても、衆と共に分かちて食し、一樽いつそんの酒を得ても、流れに注いで士と等しくいんす。士卒いまだかしがざれば大将食せず。官軍くわんぐん雨露うろに濡るる時は大将油幕ゆばくを不張。楽しみは諸侯の後に楽しみ、愁へは万人の先に愁ふ。しかのみならず夜は終夜よもすがら眠りを忘れて、みづかじやうまはつて怠れるをいましめ、昼は終日ひねもすに面をやはらげて交はりをむつましくす。いまだ須臾しゆゆの間も心を欲しいままにし、身を安んずる事を見ず。これによつてその兵三十万騎さんじふまんぎ、心を一つにして死を軽くせり。つづみを打つて進むべき時は進み、鐘を叩いて退くべき時は退かん事、一歩も大将の命にたがふ事あるべからずと見へたり。その外の事は、我らが知るべきところにあらず』とぞ語りける。




魏の兵は皆戦おうと申したが、仲達(司馬懿)は戦うことはならないと許さなかった。ある時仲達は蜀の芻蕘([身分の低い者])どもを捕らえて、孔明(諸葛亮)の陣中の指揮を訊ねると、芻蕘どもが答えて言うには、『蜀の将軍孔明は士卒([兵士])を大切にし、礼譲([礼儀をつくして謙虚な態度を示すこと])を厚くすることを軽んじることはありません。豆一粒の食を得ても、衆と共に分かちて食し、一樽の酒を得ても、順に注いで兵士と等しく飲みます。士卒の食事がまだの時は大将(孔明)も食べません。官軍が雨露に濡れていれば大将は油幕を張りません。楽しみは諸侯の後に楽しみ、悲しむ時は万人に先立って悲しみます。そればかりでなく夜は夜通し眠りを忘れて、自ら城内を廻ってさぼっている者を注意し、昼は一日中笑ながら兵士たちと仲睦まじく話しています。いまだかつてしばしの間も思うままに振る舞ったり、手を抜いて楽にしているのを見たことがありません。これによって蜀の兵三十万騎は、心を一つにして死を恐れることがないのです。鼓を打って進むべき時は進み、鐘を叩いて退くべき時は退くこと、一歩も大将の命令に背くことはありません。その外のことは、わたしどもの知るところではありません』と話したそうじゃ。


続く
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by santalab | 2014-06-10 08:44 | 太平記 | Comments(0)

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