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「太平記」桜山自害事(その2)

そもそも所こそ多かるに、わざと社壇に火を懸け焼け死しける桜山が所存を如何にとたづぬるに、この入道当社たうしやかうべかたぶけて、年久しかりけるが、社頭の余りに破損したる事を歎きて、造営し奉らんと言ふ大願たいぐわんを起こしけるが、事大営たいえいなれば、心ざしのみありて力なし。今度の謀反に与力しけるも、もつぱらこの大願を遂げんが為なりけり。されどもしんは非礼を受け給はざりけるにや、所願しよぐわん空しくして討ち死にせんとしけるが、我らこのやしろを焼き払ひたらば、公家武家ともに止む事を不得していかさま造営の沙汰可有。その身はたとひ奈落の底に堕在だざいすとも、このぐわんをだに成就じやうじゆしなば悲しむべきにあらずと、勇猛ゆうまうの心を起こして、社頭にては焼け死しにけるなり。つらつら垂迹和光すゐじやくわくわう悲願ひぐわんを思へば、順逆の二縁、いづれも済度利生さいどりしやう方便はうべんなれば、今生こんじやうの逆罪をひるがへして当来たうらいの値遇とやならんと、これも頼みは浅からずぞ思へける。




そもそも所こそ多くあるのに、どうして桜山(桜山慈俊これとし)が一の宮(現広島県福山市にある吉備津きびつ神社)の社壇に火を懸けて焼け死んだのかと言うと、桜山入道は当社に参るようになって、長年経ちましたが、社頭([神社の付近])が余りにも破損していることを悲しんで、造営するという大願を起こしましたが、大営([大事業])でしたので思いはありましたが力はありませんでした。今度の謀反に与みしたのも、ひたすらこの大願を遂げるためでした。けれども神は非礼を受けようとしなかったか、所願空しく討ち死にしようとして、我らがこの社を焼き払えば、公家武家ともに一の宮が焼失すれば必ずや造営の沙汰があると思ってのことでした。その身はたとえ奈落の底に堕在([悪い場所や下の地位に落ちて、そのままそこにとどまること])するとも、この願だけは成就しなければ悲しむべきではないと、勇猛の心を起こして、社頭([社殿の前])で焼け死にしたのでした。つらつら垂迹和光([仏・菩薩などが衆生救済のため、威光を和らげ別の姿をとってこの世に現れること])の悲願を思えば、順逆の二縁([順縁と逆縁])は、いずれも済度利生([衆生を救済して彼岸に渡すことによって衆生を利益 すること])の方便([悟りへ近づく方法])であれば、今生の逆罪がかえって当来([来世])の値遇([仏縁あるものにめぐりあうこと])となるのではないかと、桜山入道の願いは決して浅いものではないように思えるのでした。


続く


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by santalab | 2014-06-12 07:58 | 太平記 | Comments(0)

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