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「曽我物語」井出の館の跡見し事(その1)

虎は、ただ一人、十郎の空しくなりし富士の裾、井出ゐでやかたの跡を心ざして、箱根を後ろになして行くほどに、その日も、やうやう暮れぬれば、三嶋の拝殿に通夜つやまうし、明くれば、三嶋を出でて、車かへしに立ち休らひ、千本の松原、心細く歩み過ぎ、浮島原うきしまがはらにも出でぬ。南は、蒼海さうかい漫々として、田子の浦波滔々たうたうたり。北は、松山高々かうかうとして、裾野の嵐颯々さつさつたり。いまだ旅馴れぬ事なれば、かしこをいづくとも知らねども、心ざしをしるべにて、やうやう歩み行くほどに、井出ゐでの里に近付きぬ。




虎御前(大磯の遊女、曽我祐成すけなりの妾)は、ただ一人、十郎(曽我祐成)が亡くなった富士の裾野、井出(静岡県富士宮市)の館の跡を指して、箱根を背にして行くほどに、その日も暮れて、三嶋の拝殿(三嶋大社。静岡県三島市)で通夜([神社や仏堂にこもって終夜祈願すること])をして、夜が明けると、三嶋を出て、車返し([車では通れず、車を返す所])で立ち休み、千本松原(静岡県沼津市の海岸)を、心細くも通り過ぎ、浮島原(静岡県富士市)に着きました。南には、蒼海([大海原])がどこまでも広がり、田子の浦(静岡県富士市南部の海岸)の波が果てしなく続いていました。虎御前は旅に慣れておらず、ここがどこかは分かりませんでしたが、心を道しるべとして、歩みを進め、ようやく井出の里に近付きました。


続く
by santalab | 2014-06-14 08:21 | 曽我物語

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