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「曽我物語」母、箱根へ上りし事(その3)

「思へば、誰も劣るべきにはあらねども、大磯おほいその客人の御心ざしこそ、まことあり難くこそさうらへ。あひ構へて、深く歎き給ふべからず。これをまことの善知識ぜんちしきとして、他念なく菩提心を起こし給へ。一念の随喜だにも、莫大にてさうらふぞかし。斯様かやうに思ひ切り、まことの道に入り給ひ候はば、余念なくぎやうじ給ひ候へよ。仏も六年、仙人に給仕きうじきやうしてこそ、法華をばさづかり給ひし。構へて、悪念を捨て給ふべし。人々を討ちける人を恨めしと思ひ給はば、瞋恚しんい妄執まうしうと成りて、輪廻りんゑごふ尽くべからず。あながち、手を下ろして殺し、行きて盗まざれども、思へば、そのとがをかすにて候ふぞ。構へて構へて、殺生せつしやうを心に除き給ふべし。しかれば、第一の戒にて候ふぞ。をんなは、殊に執情しうじやう深きに依りて、三途さんづの業尽きず候ふぞや。聞き給へ。




「思えば、誰が劣るものではないが、大磯の客人(虎御前。大磯の遊女で祐成すけなりの妾)のお心ざしこそ、まことありがたいものでございます。けして、深く悲しむことのありませんよう。これを仏道への善知識([人を仏道へ導く機縁となるもの])と思われて、他念なく菩提心([悟りを求めようとする心])を起こされますよう。一念の随喜([他人のなす善を見て、これに従い、喜びの心を生じること])でさえ、莫大の利益がございます。そう思い切られて、仏道に入られたなら、余念なく勤行に励まれなさい。仏(釈迦)も六年間、仙人(アーラーラ・カーラーマ仙人)の世話をして、法華経を授かったのです。迷わず、悪念をお捨てなさい。この人々(祐成すけなり時致ときむね)を討った人を恨めしく思えば、瞋恚([怒り])の妄執([成仏を妨げる虚妄の執念])となって、輪廻の業から遁れることはできません。直接、手を下して殺し、自ら盗みをしなくとも、そう思えば、罪を犯したのと同じことです。よくよく銘じて、殺生なさいませんよう。これが、第一の戒(不殺生)でございます。女というものは、とりわけ執情が深いものですれば、三途([地獄道・畜生道・餓鬼道])の業から遁れることができないのです。よくお聞きなさい。


続く


by santalab | 2014-06-14 20:29 | 曽我物語

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