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「太平記」宣房卿二君奉公の事(その2)

ややあつてのたまひけるは、「『忠臣不必択主、見仕而可治のみなり』といへり。されば百里奚はくりけいは再び仕秦穆公ぼくこう永く令致覇業、管夷吾くわんいごはかへつて佐斉桓公、九度ここのたび令朝諸侯。しゆ無以道射鉤之罪、世不皆奈鬻皮之恥といへり。就中武家如此許容の上は、賢息二人ににんの流罪をもいかでか無赦免御沙汰や、それ伯夷はくい叔斉しゆくせいは飢ゑて何のえきかありし。許由きよいう巣父さうふ遁れて不足用。そもそも隠身永く断来葉之一跡、与仕朝とほく耀前祖之無窮、是非得失ぜひとくしつ有何処や。与鳥獣同群孔子の所不執なりと」。資明すけあきらきやう理を尽くして被責ければ、宣房のぶふさきやう顔色がんしよくまことに屈伏くつふくして、「『以罪棄生、則違古賢夕改之勧、忍垢苟全則犯詩人胡顔之譏』と、曹子建さうしけんが詩を献ぜしへうに書きたりしも、ことわりとこそ存ずれ」とて、遂に参仕さんじの勅答をぞ被申ける。




しばらくして資明すけあきら(日野資明)が申すには、「『忠臣は主を選ばず、仕え治めるのみ』と言います。なれば百里奚(中国春秋時代の秦の宰相)は再び秦の穆公(中国春秋時代の秦の第九代公)に仕え永く覇業を致しせめ、管夷吾(管仲)はせいの桓公(春秋時代・斉の第十六代君主)を助け、九度も諸侯を出仕させました。主が道理なく矢を射る罪を、世の人すべてがこれを受けて辱めを受けなくてはならないのかということです。その上武家のお許しがある上は、賢息二人の流罪をもどうして赦免の沙汰が下りないことがありましょう。伯夷(古代中国・殷代末期の王子の兄弟。聖人)・叔斉(伯夷の弟)は飢えて何の益があったのでしょう。許由(中国古代の伝説上の人物)・巣父(中国の古伝説上の隠者)は隠遁して仕えることなし。そもそも隠身は永遠に永くその跡を断ち、朝廷に仕えた前祖の栄誉を無窮([無限])に消し去ることにほかなりません、いったい何の損得あってのことでしょう。鳥と獣の中に交わって人は生きていけないと孔子が書いておりませんでしたか(『論語』らしい)」。資明卿が道理を尽くして責めたので、宣房卿(万里小路宣房)は屈伏([相手の強さ・ 勢いに負けて従うこと])の表情で、「『罪により命を捨てようと思いますが、則違古賢([昔の賢人])が過ちを犯しても夕べに改めればよいと勧められ、恥を忍んで恥ずかしくも永らえようとすれば詩人から顔の面の厚いやつだとの誹りを受けます』と、魏の曹子建(曹植さうしよく。曹操の子)が詩を献じ表([臣下から君主に差し出す文書])に書いたのも、理と存じます」と申して、遂に参仕の勅答を申しました。


続く
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by santalab | 2014-06-15 11:38 | 太平記 | Comments(0)

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