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「太平記」時政参篭榎嶋事(その1)

時すでに澆季げうきに及んで、武家天下の権を執る事、源平両家の間に落ちて度々に及べり。しかれども天道てんだうは必ず満てるを欠くゆゑに、あるひは一代にして滅び、あるひは一世をも不待して失せぬ。今相摸入道にふだうの一家、天下を保つ事すでに九代に及ぶ。この事有故。昔鎌倉草創さうさうの始め、北条ほうでうの四郎時政ときまさ江の島に参篭して、子孫の繁昌を祈りけり。三七日に当たりける夜、赤き袴に柳裏やなぎうらきぬ着たる女房の、端厳美麗たんごんびれいなるが、忽然として時政がまへに来たつて告げていはく、「なんぢ前生ぜんじやう箱根法師はこねぼふしなり。六十六ろくじふろく部の法華経ほけきやう書写しよしやして、六十六箇国の霊地に奉納ほうなふしたりし善根ぜんごんに依つて、再びこの土に生まるる事を得たり。されば子孫永く日本につぽんの主と成つて、栄華えいぐわに可誇。ただしその振る舞ひたがふところあらば、七代を不可過。我が所言不審あらば、国々にをさめし所の霊地を見よ」と云ひ捨ててかへり給ふ。その姿を見ければ、さしもいつくしかりつる女房、たちまちに伏し丈二十丈にじふぢやうばかりの大蛇と成つて、海中に入りにけり。




時すでに澆季([道徳が衰え、乱れた世])に及んで、武家が天下の権を執ること、源平両家を入れ替え度々に及びました(北条氏は平家)。けれども天道は必ず満ち欠けするものでしたので、ある時は一代にして滅び、ある時は一世をも待たず失せました。今相摸入道(北条高時たかとき。鎌倉幕府第十四代執権)の一家が、天下を保ってすでに九代に及びました。これには訳がありました。昔鎌倉幕府が始まった頃、北条四郎時政(北条時政。北条政子の父で鎌倉幕府初代執権)が江の島(現神奈川県藤沢市にある江島神社)に参篭して、子孫の繁昌を祈りました。三七日(二十一日目)に当たる夜、赤い袴に柳裏([裏柳]=[表は白、裏は萌葱])のを着た女房、端厳美麗(威厳があって美しい)者が、忽然として時政の前に現れて告げて申すには、「お前の前生は箱根法師(現神奈川県足柄下郡箱根町にある箱根神社)ぞ。六十六部の法華経を書き写し、六十六箇国の霊地に奉納した善根によって、再びこの土に生まれることを得たのだ。されば子孫永く日本の主となって、栄華を誇るであろう。ただしその振る舞いが神意と違うことあれば、七代を過ぎることはない。わらわの申すことに不審あれば、国々に納めた所の霊地を尋ねよ」と言い捨てて帰って行きました。その姿を見れば、威厳ある女房は、たちまちに長さ二十丈(約60m)もある大蛇となって、海中に入りました。


続く
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by santalab | 2014-06-15 15:41 | 太平記 | Comments(0)

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