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「太平記」大塔宮熊野落の事(その7)

玄尊走りかへつこの由をまうしければ、宮を始め奉りて、御供の人皆かれがたちへ入らせ給ふ。宮病者の伏したる許へ御入りあつて御加持かぢあり。千手陀羅尼せんじゆだらにを二三反高らかに被遊て、御念珠んねんじゆを押し揉ませ給ひければ、病者みづから口走つて、様々の事を云ひける、まことに明王みやうわうばくに被掛たるていにて、足手をしじめてわななき、五体に汗を流して、物の怪すなはち立ち去りぬれば、病者たちまちに平瘉へいゆうす。あるじをつと不斜喜うで、「我たくはへたる物候はねば、べちの御引出物まではかなひ候ふまじ。曲げてじふ余日これに御逗留とうりうさふらひて、御足みあしを休めさせ給へ。例の山伏粗忽そこつに忍びで御逃げ候ひぬと存じ候へば、恐れながらこれを御質ごしちに給はらん」とて、面々のおひどもを取り合はせて皆内にぞ置きたりける。御供の人々、うへにはその気色きしよくを不顕といへども、下には皆悦び思へる事無限。




玄尊は走り帰ってこのことを申し上げると、大塔の宮(護良もりよし親王。第九十六代後醍醐天皇の皇子)をはじめ、供の者たちは戸野兵衛の館に赴きました。大塔の宮は病者が伏した部屋へ入られて加持を行いました。千手陀羅尼([千手観音の徳について説いた梵語の呪文])を二三反高らかに唱えて、念珠を押し揉むと、病者は自然と口走り、様々なことを言いました、まるで明王の縛にかかったように、手足を縮めて震わせ、五体に汗を流して、物の怪はすぐに退散し、病者はたちまち平瘉しました。主の夫はたいそうよろこんで、「わしには蓄えた物もなく、格別の引き出物は用意できない。どうか十日ほどここに逗留されて、足を休めてくだされ。目を離したすきに山伏に逃げられたとあっては恥となります、恐れながらこれは預かっておきます」と言って、各々の笈を受け取って館の中に置きました。供の人々は、面には表わしませんでしたが、心の内ではとてもよろこびました。


続く
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by santalab | 2014-06-15 21:18 | 太平記 | Comments(0)

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