すなはち、大見の小藤太が許へ押し寄せたり。この者は、本より、心下がりたる者にて、八幡が討たるるを聞きて、取るもの取り敢へず、落ちたりしを、狩野境に追ひ詰めて、搦め捕りて、川の端にて、首を刎ねたり。九郎は、二人が首を捕りて、父入道に見せければ、由々しくも振る舞ひたりとぞ感じける。曽我にありける河津が妻女も、喜ぶ事限りなし。祐清は、入道が憤りを止め、兄が仇を討ちし孝行、一方ならぬ忠とぞ見えける。
伊東祐清はすぐに、大見小藤太の許に押し寄せました。この者は、本より、覚悟のない者でしたので、八幡(八幡行氏)が討たれたことを聞いて、取るものも取りあえず、逃げましたが、祐清は狩野境に追い詰めて、搦め捕って、狩野川(伊豆半島を流れる川)の端で、首を刎ねました。九郎(祐清)は、二人(八幡行氏・大見小藤太)の首を捕って、父入道(伊東祐親)に見せれば、よくやったと褒めました。曽我(現神奈川県小田原市)にいる河津(河津祐泰)の妻女も、たいそう喜びました。祐清は、入道(祐親)の怒りを止め、兄の仇を討った孝行は、並々ならぬ忠と思えました。
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続く)