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「曽我物語」平六兵衛が喧嘩の事(その1)

ここに、十郎じふらうが身に当てて、思はざる不思議こそ出で来けれ。ゆゑを如何にとたづぬるに、三浦平六兵衛へいろくびやうゑ妻女さいぢよは、合沢あひざは土肥とひ弥太郎やたらうが娘なり。この人々とは従姉妹なり。幼少えうせうより、叔母にやうぜられて、伊東にありけるほどに、十郎と一所に育ちけり。やうやう成人するほどに、十郎、かれに忍びて、情けを懸けたりける。互ひの心ざし深ければ、いへにも取り据ゑ、まことの妻にも定むべかりしを、仇を討たんと思ひけるあひだいへを忘れて、ただをんなの許へぞ通ひける。




ここに、十郎(曽我祐成すけなり)の身に、思いもしなかった不思議な出来事がありました。どういうことかというと、三浦平六兵衛(三浦義村よしむら)の妻女は、合沢土肥弥太郎(土肥遠平とほひら)の娘でした。曽我兄弟(祐成・時致ときむね)の従姉妹でした。幼い頃より、叔母に養なわれて、伊東(現静岡県伊東市)にいましたので、十郎(祐成)とともに育ちました。成人すると、十郎(祐成)は、義村に忍んで、情けをかけるようになりました。互いの心ざしは深く、家に置いて、妻にもするほどでしたが、仇(工藤祐時すけとき)を討とうと思っていたので、家には寄り付かず、ただ女の許へ通っていました。


続く


by santalab | 2014-06-30 17:52 | 曽我物語

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