そう申して尼君は鄙にふさわしくもてなしました。小君は幼い心ながらそのためにここにやって来たのではないと違和感を覚えて、尼君に「わざわざ訪ねて来たのは、姉から返事をいただくためです。ただ一言でかまいません、何か書くようにおっしゃってくださいませ」と言いました。尼君は「分かりました」と言うばかりでした、小君は薫大将がこう申しておりました、とそのままに伝えましたが、姉からの返事はありませんでした。尼君はこのままでは小君がかわいそうだと思って、「ただ、遠くのあの雲のように、心許なく暮らしていると大将殿【薫】にお伝えください。ここはあの雲のように遥か遠くでもございません、山風が吹くとも、必ずまた訪ねてくださいね」と申しました。小君もこのまま日暮れまでここにいても姉には会えないとあきらめて、帰ることにしました。小君はなつかしく思う姉に心の内ではぜひ会いたいと願っていましたが、会えずじまいになったことを、ただなんとも言えず残念に思いながら、仕方なく帰って行きました。
(続く)