その頃、横川に某の僧都とかと言う、とても尊い僧が住んでいました。八十過ぎの母と五十ばかりの妹がいました。僧都の母【大尼】と妹【尼君】は昔の願のお礼参りに、初瀬に参詣に出かけました。
僧都は親しい仲の者で重用している弟子の阿闍梨を供に付けて、仏経供養を取り行わせることにしました。仏事を多く終えて帰る途中、奈良坂と言う山を越えている時に、僧都の母である尼君の具合が悪くなって、「これほど具合が悪くては、とても残りの道を歩くことはできそうもありません」と大騒ぎになりました。宇治のあたりに知る人の家があったので、まずはそこに落ち着いて、今日ばかりは休ませることにしましたが、なおも苦しさは治まらず、横川も僧都に知らせることにしました。
(続く)