大尼君の病いはすっかりよくなりました。方塞がりもなくなったので「これほど気味の悪い場所に長くいるのはよくない」と申して僧都たちは帰ることにしました。女房たちは「この人はまだ弱々しげです。道のりも遠く、大尼君のことも心配です」と口々に言いました。車二台に、一台には僧都・大尼君と仕える尼二人、次の一台にはこの女を寝かせて、妹尼君と女のそばにもう一人女房を乗せて、道中で度々車を止めて女に湯を飲ませたりしました。
尼君たちは比叡坂本の小野と言う所に住んでいました。小野まではとても遠い道のりでした。「中宿りを用意しておくべきでした」などと言っているうちに、すっかり夜が更けてから小野に着きました。
(続く)