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「増鏡」春の別れ(その8)

その頃、長月ばかり、まだ東雲しののめのほどに、世の中いみじく騒ぎ罵る。何事にかと聞けば、美濃の国のつはものにて、土岐ときの十郎とかや、また多治見たぢみ蔵人くらうどなど言ふ者ども忍び上りて、四条わたりに立ち宿りたる事ありて、人に隠れてりけるを、早うまた告げ知らする者ありければ、にはかにその所へ六波羅より押し寄せて、搦め捕るなりけり。あらはれぬとや思ひけん、かの者どもは、やがて腹切りつ。また、別当資朝すけとも・蔵人の内記俊基としもと、同じやうに武家へ捕はれて、厳しくたづね問ひ、護り騒ぐ。事の起こりは、御門世を乱り給はんとて、かの武士もののふどもを召したるなりとぞ、言ひあつかふめる。




その頃、長月([陰暦九月])のことでございましたか、まだ東雲([夜が明けようとして東の空が明るくなってきた頃])のほど、世の中はたいそう慌ただしくなりました。何事かと聞けば、美濃国の兵で、土岐十郎(土岐頼兼よりかね)とか、また多治見蔵人(多治見国長くになが)などと申す者が都に忍び上り、四条あたりに入り、隠れ住んでいたのを、早くもまた告げ知らせる者があったので、急ぎその場所へ六波羅探題より押し寄せて、搦め捕ったということでございました。見つけられたと思って、この者たちは、すぐに切腹しました。また、別当資朝(日野資朝)・蔵人内記俊基(日野俊基)も、同じように武家(鎌倉幕府)へ捕えられて、厳しく糾問され、都は警固されました。事の起こりは、帝(第九十六代後醍醐天皇)が世を乱そうとなされて、武士たちを呼び集めたのだと、噂となったのでございます(正中の変)。


続く


by santalab | 2014-08-07 08:33 | 増鏡

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