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「増鏡」月草の花(その10)

日暮らし、八幡やはた・山崎・竹田・宇治うぢ勢多せた・深草・法性ほつしやう寺など、燃え上がるけぶりども、四方の空に満ち満ちて、日の光も見えず。墨を摺りたるやうにて暮れぬ。ここにも火かかりて、いと浅ましければ、いみじう固めたりつる後ろのぢんからうじて破りて、それより免れ出でさせ給ふ御心地ども、夢路ゆめぢをたどるやうなり。内のうへも、いと怪しき御姿にことさらやつし奉る、いとまがまがし。両院も、御手を取り交はすと言ふばかりにて、人に助けられつつ出でさせ給ふ。上達部かんだちめ・大臣たちは、袴のそば取りてかうぶりなどの落ち行くも知らず、空を歩む心地して、あるは川原を西へひんがしへ、様々散り散りになり給ふ。両六波羅仲時なかとき時益ときます、東を指してあづまへと心がけて落ちければ、御幸も同じ様になし奉りけり。西園寺さいをんじの大納言公宗きんむねは、北山へおはしにけり。右衛門督経顕つねあき左兵衛さひやうゑかみ隆蔭たかかげ資明すけあきらの宰相などは、御幸の御供にまゐらる。按察あぜちの大納言資名すけなは、足をそこなひて、東山ひんがしやまわたりに留まりぬなど言ひしは、いかがありけん。




一日戦って、八幡(現京都府八幡市)・山崎(現京都府乙訓おとくに郡大山崎町)・竹田(現京都市伏見区)・宇治(現京都府宇治市)・勢多(現滋賀県大津市)・深草(現京都市伏見区)・法性寺(現京都市東山区にある寺)などで、燃え上がる煙は、四方の空に満ち満ちて、日の光も見えないほどでございました。まるで墨を摺ったようにして日が暮れたのでございます。内裏に火が及んで、とても激しく燃えておりましたので、厳重に固めた後ろの陣([兵営])をなんとか破って、それからお出になられましたが、まるで夢路を迷われるようでございましたでしょう。内裏におられた上(北朝初代光厳天皇)も、たいそうみすぼらしいお姿になられて、目も当てられない有様でございました。両院(第九十三代後伏見上皇と第九十五代花園上皇)も、手を取られつつ、人に助けられて内裏をお出になられました。上達部([公卿])・大臣たちは、袴のそばを差し挟んで冠が落ちるのも気にせず、まるで空を歩くような心地で、ある者は鴨の川原を西へ東へと、思い思い散り散りになってしまいました。両六波羅探題の仲時(北条仲時。六波羅探題北方)・時益(北条時益。六波羅探題南方)は、東を指して東国へ逃れようと思って落ちて行きましたので、御幸(光厳天皇)も同じく東に向かわれました。西園寺大納言公宗(西園寺公宗)は、北山へ行かれました。右衛門督経顕(勧修寺経顕)・左兵衛督隆蔭(四条隆蔭)・資明宰相(柳原資明)などは、御幸のお供に参りました。按察大納言資名(日野資名)は、足を痛めて、東山のあたりに留まったとお聞きしましたが、どうなられたのでしょう。


続く


by santalab | 2014-08-21 15:36 | 増鏡

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