今一所の御曹司も近きほどなれば、そなたざまに歩みおはして、いと心静かならねど、この君をば、押し並べての際ならず思すめり。この御腹に、御子たち数多おはしましき。かく廻らせ給ふほどに、いたく更けてぞ、中宮上らせ給ふ。この御代にも、いみじき行幸ども、由々しき事多かりしかど、年の積もりに何事も定かならず、月日などおぼろに侍れば、中々聞こえず。
もう一所の曹司([部屋])も近ければ、そちらへも行かれました、心穏やかでございませんほどに、この君(洞院季子?)を、寵愛されておられました。この腹に、子が多くおられました。こうして部屋を訪ねられておりますうちに、夜はたいそう更けて、中宮(西園寺鏱子)が参られました。この時代にも、華やかな行幸や、盛大な行事が数多くございましたが、年を取ったせいか定かでなく、月日などおぼろげでございますれば、お話しすることはございません。
(続く)