あはれに見奉らせ給ひつつ、名残りもいみじく眺められて、勾欄に押しかかり給へる夕ばえの御容、いとめでたし。ありつる紅葉を、西園寺の大納言公顕の宿所所へ遣はす。
雨と降る 涙の色や これならん 袖より外に 染むる紅葉葉
女院の御
兄弟なれば、しめやかなる御山住みの心苦しさに、
候ひ給ふなりけり。御
返事、
いくしほか 涙の色の 染めつらん 今日を限りの 秋の紅葉葉
あはれに見奉らせ給ひつつ、名残りもいみじくながめられて、勾欄に押しかかり給へる夕ばえの御容、いとめでたし。この紅葉を、西園寺大納言公顕(西園寺公顕)の宿所所へ届けられました。
雨の如く降る涙色をしております。袖よりこぼれた涙で染まったのです、この紅葉葉は。
女院(第九十代亀山院の妃、西園寺
瑛子)の弟でしたので、侘しい山住まいの心苦しさに、ここににおられました。返事、
どれほど(幾入)の涙に染められたのでしょうか。まるで今日を限りの秋と思えるほどに色付いた紅葉葉ですね。
(続く)