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「増鏡」つげの小櫛(その28)

月日ほどなく移り過ぎぬれば、院も宮々も、各々散り散りにあかれ給ふほど、今少し物悲しさ勝る御心の内どもは尽きせねど、世の習ひなれば、さのみしもはいかが。昭慶門院せうけいもんゐんは、数多あまたの宮たちの御中に、勝れてかなしきものに思ひ聞こえさせ給ひしかば、御処分そうぶんなどもいとこちたし。大堰川おほゐがはに向かいて、離れたる院のあるをぞ奉らせ給へれば、そこにおはしまししほどに、川端殿かはばたどのの女院など、人は申し侍りし。かの所は臨川寺りんせんじとぞ言ふめる。都にも土御門室町にありし院、いづれもこの頃は寺になりて侍るめりとぞ。めでたくこそあはれなれ。




月日はほどなく移り過ぎて、院(第九十一代後宇多院)も宮々も、各々散り散りに別れられて、さらに物悲しさまさる心の内は尽きることはございませんでしたが、世の習いでございますれば、慰めようもございませんでしたでしょう。昭慶門院(第九十代亀山天皇の第二皇女、憙子きし内親王)は、数多くの宮たちの中でも、とりわけかわいがっておいででございましたので、処分([遺産])も格別なものでございました。大堰川(桂川)に面して、都から離れた院がございましたのを相続なされて、そこにおられましたので、川端殿の女院などと、人は申しておりました。かの所は臨川寺(現京都市右京区にある寺)と申します。都でも土御門室町にございました院も、いずれも今では寺になっております(現京都市上京区にある清浄華院しやうじやうけゐん)。おめでたくも悲しいことでございました。


続く


by santalab | 2014-08-30 13:35 | 増鏡

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