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「とりかへばや物語」巻一(その1)

いつの頃にか、権大納言にて大将かけ給へる人、御かたち身の才心用ゐよりはじめて、人柄世の覚えも並べてならず物し給へば、何事かは飽かぬことあるべき御身ならぬに、人知れぬ御心の内の物思はしさぞ、いと尽きせざりける。北の方二所物し給ふ。一人は、源宰相と聞えしが御娘に物し給ふ。御心ざしはいとしも優れねど、人よりさきに見初め給ひてしかば、をろかならず思ひ聞こえ給ふに、いとど世になく珠光る男君さえ生まれ給ひにしかば、またなく去り難きものに思ひ聞こえ給へり。いま一所は、藤中納言と聞こえしが御娘に物し給ふが御腹にも、姫君のいと美しげなる生まれ給ひしかば、様々めづらしく、思ふ様に思しかしづく事限りなし。上たちの御有様のいづれもいとしも優れ給はぬを、思す様ならず口惜しき事に思したりしかど、今は君達の様々美しうて生い出で給ふに、いづれの御方をも捨て難きものに思ひ聞こえ給ひて、今はさる方におはし付きに足るべし。




いつの頃のことでしたかの、権大納言で大将を兼ねた人がおられました、姿かたち才能心持ちよりはじめて、人柄世の覚えも他に優っておられての、何事も心配などないように思えたんじゃが、人知れず心の内の悩みは、尽きることがございませんでした。権大納言には北の方が二人おられました。一人は、源宰相の娘でございました。性格はそれほど優れておられませんでしたが、人より先に見初められて、それなりに通っておられました、そして世になく珠が光るような男君が生まれて、いっそう去り難く思って通っておられました。もう一人は、藤中納言の娘でございましたがここにも、とても美しい姫君が生まれて、とてもかわいく思われて、思うがままにかわいがられました。妻たちはとりたてて美しくもございませんでしたので、権大納言は残念に思っておられましたが、今では君達が皆美しくお生まれになられたので、どちらの方も捨て難く思われて、今ではどちらも隔てなく足を運んでおられました。


続く


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by santalab | 2014-09-04 21:47 | とりかへばや物語 | Comments(0)

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