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「とりかへばや物語」巻一(その8)

さるは、かたはら痛ければ、つくろひ化粧じ給はねど、わざともいとよくしたる色合ひなり。御額髪も汗にまろがれて、わざとひねりかけたるやうにこぼれかかりつつ、らうたく愛嬌付きたり。白くおびたたしくしたてたるは、いと気疎けうとかりけり。かくてこそ見るべかりけれと見ゆ。十二におはすれど、かたなりにをくれたる所もなく、人柄のそびやかにてなまめかしき様ぞ、限りなきや。桜の御衣のなよよかなる六つばかりに、葡萄えび染めの織物のうちきあはひにぎははしからぬを着なし給へる、人柄にもてはやされて、袖口・裾のつままでおかしげなり。いで浅ましや、尼などにて、ひとへにその方の営みにてやかしづきなまし、と見給ふも口惜しく、涙ぞ掻き暮らされ給ふ。

いかなりし 昔の罪と 思ふにも 此世にいとど 物ぞかなしき




さすがに、憚りがあるのか、姫君【若君】は化粧はしませんでしたが、かえってそれが雰囲気をかもし出していました。額髪([前髪])が汗で濡れて、ひねったように流れて、かわいらしく見えました。顔を白く塗りたてるのは、たいそう違和感があるものです。やはり素顔が一番だと権大納言は思うのでした。姫君【若君】は十二歳でしたが、人並みの背丈があり、ほっそりとして若々しくて、なんとも言えず美しい様でした。桜色の衣を六つ襲([表衣うはぎひとえとの間に五枚のうちきを重ねて着ること])に、葡萄染め([薄い赤紫色])の織物の袿([衣])、薄色でけばけばしくないものを着ていましたが、人柄が滲み出て、袖口・裾の褄までなんともいえない趣きがありました。残念なことでしたが、尼などになして、ひたすら仏道の営みをさせて面倒を見るほかないだろうか、と思うに付けなんとかならないものかと、権大納言は涙に暮れるのでした。

いったいどれほど昔に罪があったのだろうかと、思ってあきらめようとしても、この世にどうしてと、悲しむばかりぞ。


続く


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by santalab | 2014-09-09 21:48 | とりかへばや物語 | Comments(0)

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