かくて、この子、十二になりぬ。容の麗しく美しげなること、さらにこの世の者に似ず。綾、錦を着て、玉の台に傅かるる国王の女御、后、天女、天人よりも、かかる草木の根を食物 にして、岩木の皮を着物にし、獣を友として、木のうつほを住みかとして生ひ出でたれど、目もあやなる光添ひてなむありける。母も、父君添ひていつき傅きし時よりも、顔かたちは優りて、めでたきこと限りなし。この年来、ただこの猿どもに養はれて、こよなく便りを得たる心地するも、あはれなり。水は、蓮の葉の大きなるに包みて、持て来。芋、野老、菓物 、様々なる物の葉に包みて、持て来集まる。
こうして、この子は、十二歳になりました。姿かたちの麗しく美しい様は、まったくこの世の者とは思えないほどでした。綾織りや、錦織りの着物を着て、玉の高殿で大切に育てられた国王の女御(天皇の妻)、后(皇太后、天皇の妻)、天女、天人よりもずっと美しく、まわりの草木の根を食べ物とし、樹木の皮を着物に、獣を友として、木のうつほを住みかとして育ちましたが、目にたくさんの光を添えてキラキラ輝いていました。母が、父(俊蔭)にとても大切に育ててられていた頃よりも、この子の顔かたちは優って、まことみごとなほどでした。この年頃には、猿たちに養われて、子は猿たちをこの上なく頼りにしていました、猿たちに愛されていたのです。猿たちは水を、大きな蓮の葉に包んで、持ってきました。山芋、野老(ヤマノイモ科)、果実は、いろいろな木の葉に包んで、持って子の許に集まりました。
(続く)