Santa Lab's Blog


「増鏡」おどろのした(その18)

大方、この院のうへは、よろづの事にいたり深く、御心も華やかに、物にくはしうぞおはしましける。夏の頃、水無瀬殿の釣殿に出でさせ給ひて、氷水ひみづ召して、水飯すいはんやうの物など、若き上達部・殿上人てんじやうびとどもに賜はさせて、大御酒おほみきまゐるついでにも、「あはれ、いにしへの紫式部こそはいみじくはありけれ。かの源氏の物語にも、「近き川の鮎、西川より奉れるいしぶしやうの物、御前にて調てうじて」と書けるなむ、優れてめでたきぞとよ。ただ今さやうの料理れうり仕うまつりてんや」などのたまふを、はたなにがしとか云ふ御随身みずいじん勾欄かうらんのもと近くさぶらひけるが、うけたまはりて、池のみぎはなるささを少し敷きて、白きよねを水に洗ひて奉れり。「拾はば消えなん」とにや。これも「怪しかるわざかな」とて、御衣おんぞ脱ぎてかづけさせ給ふ。御土器かはらけ度々聞こし召す。その道にも、いとはしたなく物し給ふ。何事も愛嬌付あいぎやうづき、めでたく見えさせ給ふ御有様、千年ちとせるとも飽く世あるまじかめり。




そもそも、この院の上(第八十二代後鳥羽院)は、万事心行くまでなされるお方で、心も華やかで、知識があるお方でございました。水無瀬殿(現大阪府三島郡島本町にあった後鳥羽院の離宮)の釣殿([寝殿造りの南端の、池に臨んで建てられた周囲を吹き放ちにした建物])に出られて、氷水を運ばせて、水飯([飯に冷水をかけて食べる食事])など、若い上達部・殿上人どもに賜われて、大御酒を参らせるついでにも、「なんとも、古の紫式部は大したものよ。かの源氏物語にも、「近き川(賀茂川)の鮎、西川(桂川)より奉れるいしぶし([ウキゴリ。スズキ目ハゼ科])のようなものを、御前で調理して」と書いておる、たいそう詳しく書いてあってうれしい。すぐにそういう料理を用意せよ」と申されると、秦の某とかいう随身([平安時代以降、貴族の外出時に警護のために随従した近衛府の官人])が、勾欄([欄干])の下近くに伺候しておりましたが、承って、池の汀の篠を少し敷いて、白米を水に洗って奉りました。「数ならぬ 伏屋に生ふる 名のうさに あるにもあらず 消ゆる帚木ははきぎ=帚木は現長野県下伊那郡阿智村園原伏屋にある木。遠くから見れば箒を立てたように見えるが 、近寄ると見えなくなるという伝説の木か(『源氏物語』)」と申されたとか。これも「うまくかわしよったのう」と申されて、衣を脱いで与ました。盃が度々廻らされました。後鳥羽院は、酒にも強うございました。何事にも興味を持たれ、ご立派なお方ですれば、千年を経るとも飽きることがなかったことでございましたでしょう。


続く


[PR]
by santalab | 2014-09-16 08:25 | 増鏡 | Comments(0)

<< 「増鏡」おどろのした(その19)      「増鏡」おどろのした(その16) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
さらに付け加えますと、こ..
by 八島 守 at 09:03
おそらく「国民文庫」だと..
by santalab at 21:09
こんにちは。今日はSan..
by 佐藤綾乃 at 18:44
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧