かくて後なむ、「さは、この三条の北の方は、俊蔭 の娘」と、人知りける。「年来は、いかなりける人ならむ、いみじき色好みを、かく傍目 させ奉らぬこと」と、怪しがり聞こゆるもあり。また、「卑しき者を取り据ゑて、言ふ効なく纏はされ給ふぞ。色好みの果ては、かくぞあるや。怪しき者にとまるとは」などぞ、安からず聞こえける。
その後は、「そうか、この三条の北の方は、俊蔭の娘なのか」と、人に知られるようになりました。「最近、右大将はどうなってしまわれたことか、たいそう数寄者であったが、これほどまで浮気をみせないことは今までなかったことよ」と、不審がって言う者もありました。また、「貧しい者を見つけてきて、何を言ったところで気にもせず傍に置かれたそうじゃ。数寄者を極めると、そうなってしまうのだろうか。最後は卑しい者に行き着くのかな」などと、心無いことを言う者もいました。
(続く)