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「とりかへばや物語」巻一(その20)

その頃の御門の御叔父に式部卿の宮と聞こゆる人の御一つ子の君、この侍従の君には二つばかりのこのかみにて、かたち有様、いと侍従のほどにこそ添はね、並べての人よりはこよなく優れて、あてにをかしく、心ばへたとしえなく、かからぬくまなく好ましく、なよびなまめかしくて、思ひいたらぬ方なき心にて、この殿の姫君、右の大臣の四の君、取り取りに名高くいわれ給ふを、いづれをもいかでと思ふ心深くて、さるべき方よりあながちに尋ね寄りつつ、心の限りかいつくし焦られ侘ぶれど、人柄のいと婀娜あだならぬに、露の事もあな由々しと、いづ方にも思し離れて返事する人もなきを、わりなく嘆きつつ、この侍従のあまりいみじく物忠実まめやかに、乱るる所もなく納めたるこそ、あまりさうざうしきやうなれど、見る目かたちの似る者なく、愛敬こぼれて美しき様の、かかる女のあらましかばと、見る度にいみじく思はしきを、妹もかくこそは物し給らめ、女はいま一際優るらんほどを思ひ遣るに見奉らで止むべき心地もせず。




その頃の帝【朱雀帝】の叔父に式部卿の宮と申される人の一つ子の君がおられました、この侍従の君【姫君】には二つばかり年上で、その姿かたちは、侍従ほどに優れておりませんでしたが、人並みより遥かに優れて、気品があって魅力的で、心持ちは例えなく、何一つ足りぬところなく好ましく、物腰はやわらかく魅力的でございました、数寄に心を寄せ、この殿【権大納言】の姫君、右大臣の四の君、それぞれ評判高い君たちを、一人残らず何とかものにしたいと強く願い、縁故を頼って近付き文を贈っては、思うようにもならず嘆きながらも、人柄はあくまで艶めかしくて、一縷の望みにかけて、どちらにも相手にされず返事する人もなく、無情を嘆いておりました、この侍従【姫君】があまりに生真面目で、乱れることもなく、噂の一つもなく面白みがないようにも思っておりましたが、姿かたちは敵う者なく、愛敬こぼれるほどに美しく、これほどの女がいたならばと、見る度に気になって、妹【若君】に何とか逢いたいものだ、妹はいっそう美しいに違いないと思わずにはいられませんでした。


続く


by santalab | 2014-09-20 09:19 | とりかへばや物語

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