大殿・内裏の御宿直がちになりたるを、珍しきこと添ひては、いま少し心ざし添ひなんと思ひしを、いと怪しと人々も見奉る。殿も上も、「怪しく、中納言の精進がちに、夜離れがちに、この頃なり給へるかな。いかなる事にかあるらん」と嘆き給ふを、見聞き給ふ御心地、置き所なく侘びしう、いかで消え失せ、身をなきになしてしがなとのみ思しなるを、かの人は、左衛門浅からず心を寄せたる道の導なれば、心地の有様など詳しく聞くに、いとどあはれに、契りのほど思ひ知られて、さばれ、世の慎ましさ人目の見苦しさも知らず、盗み隠してしがなと焦られ増さり給へど、さはたあるべき事ならねば、思ひ乱るる事多かる世にぞありける。
大殿【権大納言】・内裏の宿直の日が多くなったので、どういうことでしょう、さらに四の君への愛情が増すと思っていましたのに、と不思議なことと女房どもは思うのでした。殿【右大臣】も上(右大臣の妻)も、「どういうことか、中納言【姫君】は最近勤行や、宿直ばかり、しておるではないか。何があったのだろう」と嘆くのを、四の君は聞く度に、身の置き所もないほどに侘しく、消え失せてしまいたい、死んでしまいたいとばかり思っていました、宰相中将は、左衛門【女房】に便宜をはかってもらっていたので、四の君の様子を詳しく聞いて、ますます哀れに思い、契りの深さを思い知って、ならば、世の評判人目のことなど気にせず、四の君を盗み隠してしまおうと思うのでした、けれどもそんなことはできようもなく、まして思い乱れるのでした。
(続く)