御伴には、導せし人ばかり、さては御乳母子やうの人、親しく思す四五人ばかり、いみじく忍びて詣で給ふ。九月ばかりなれば、叢々気色ばみゆく山の気色もあはれなるに、まだ見も知らず遠く分け入り給ふままに、心細くあはれに、殿・上何事をかはをはしますらんとおぼつかなく、仮初めと思ふ道だにかうこそ思ゆれ、まして今はと思ひ立たんほどよと、人悪く思し知らる。
涙しも 先にたつこそ あやしけれ 背くたびにも あらぬ山路を
道より導の人先立てて奉り給へば、御設ひ掻き払ひ繕ひて、御衣奉り替へなどして待ち聞こえ給ふ。陽うち入る際にぞ、おはしたる由御消息聞こゆるも、いたく用意して入りおはしたり。
伴には、宮【吉野の宮】との仲取りした男ばかり、ほかには乳母子、親しい者四五人ほど連れて、たいそう忍んで宮の許を訪ねました。九月ほどのことでしたので、所々色付いた山の景色も風流で、見も知らぬ道を遠く分け入るにつれ、心細く悲しくなって、殿【権大納言】・上(権大納言の妻)はどうしておられるだろうと心配で、ただ宮を訪ねる旅でさえも遠く離れて悲しくなるものを、まして出家を決心すればどれほどつらく思うことかと、惨めさを思い知らされるのでした。
まず涙が流れるのはなぜでしょう、父母に背いて出家を遂げる旅でもなく、山路を歩いているだけなのに。
途中より男を先に遣ると、宮【吉野の宮】は部屋を片付け掃き清めて、衣も替えて中納言【姫君】を待っておりました。陽が山陰に隠れるほどに、着いたことを知らせて、中納言は十分に気を配りながら宮の宿所に入りました。
(続く)