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「住吉物語」上(その18)

その後筑前、少将殿にまゐりて、「申し得むことはあり難く侍れど、今一度御文を給ひて聞こえて見む」と言へば、いとうれしくて、かくぞありける。

世とともに 煙絶えせぬ 富士の嶺の 下のおもひや 我が身なるらむ

と書きて、筑前取りて、「少将殿の御文」とて継母ままははに奉れば、み負けて、「美しくも書き給へるものかな。この御返し」と聞こゆれば、三の君たばかれることをば知らず、恥じ知られたる姿いと目安く、いとほし様なり。硯紙取り出だして、「それそれ」と責められて、顔うち赤らめて、
富士の嶺の 煙と聞けば 頼まれず 上の空にや 立ち上るらん

と書きて、引き結びたるを、筑前取りて、少将殿の許に行きて、「御返し」とて聞こゆれば、少将、たばかられぬるも知らず、急ぎ開けて見給へば、手など幼びれて見えけれども、よろこび給ふ事、限りなし。またまたも通はしけり。対の御方の人々、この由ほの聞きて、いとおかしく思ひ合ひ給へり。




その後筑前は、少将殿の許に帰って、「姫君はなかなか返事をくれませんが、もう一度文をいただけませんか」と言いました、少将はとてもうれしくなって、こう書きつけました。

世がいくつ変わろうが煙の途絶えぬ富士の山にもまして、燃えるわたしの想いをわかってください

と書いて、筑前に渡して、「少将殿からの文です」と言って継母に届けると、思わず笑みがこぼれて、「美しい歌ですこと。今すぐ返事をしなくては」と申しましたが、三の君(姫君の異母姉)はだまされていることに気付きませんでした。恥じる姿もけなげで、気の毒になるほどでした。継母は硯紙を取り出して、「ああだこうだ」と指図したので、三の君は顔を赤くして、
富士の山の煙と聞いて、あてにはできないと思いながらも、わたしはまるで上の空になって、舞い上がってしまいました。

と書いて、文を引き結びました、筑前はこの返事を受け取って、少将殿の許に帰って、「返事でございます」と言うと、少将は、だまされたとも知らず、急いで文を広げて見ました、文は拙く思われましたが、返事がもらえたと、たいそうよろこびました。少将はまた文を届けさせました。対屋の者たち(姫君方)はこれを伝え聞いて、とても不思議なことに思いました。


続く


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by santalab | 2014-10-21 20:00 | 住吉物語 | Comments(0)

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