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Santa Lab's Blog


「とりかへばや物語」巻一(その96)

さぶらふ人々、など、こはいかにと、あはたたしく見るもあべかめれど、いつとなくかかる御住居を心細き事と思ひ嘆く心どもなれば、かうめづらしくめでたき人のおはすると聞きて、心ときめきせらるるに、各々をのをのの姿どもうち萎へばみたるに、かかやかしくて入りぬるぞ、頼もしげなきや。こはいかにとて寄り来る人なきよとわりなきに、人のもてなしもあやにくに今めかしくなどもあらず、ただなつかしげなるに、我のみ思ひ騒がんも余りなるに、心を延べて、姉宮、「隔てなしとは、かかるをのみや。人の思はんところよ。浅まし」とあはめ給へば、「そはただをのづから心安く思しなせ。世の中に巡らひ侍らん限りは、いかで心ざしの限りを尽くして、御覧ぜられにしがなと思ひ給ふるには、あまりおぼつかなく隔て多かる心地して、いぶせく侍りければ、ただ裏なく我も人も疎かるまじき由を、思ひ給へ寄りてなん」など聞こえ給ふに、やうやう慰めて物し給ふ。




近くに仕える女房どもは、どういうこと、どうすればよいものかと、騒ぎ合っていましたがどうすることもできませんでした、ただいつもこのような侘しい住まいに心細く嘆き悲しんでおられましたが、美しく優れた人が訪ねて来られたと聞いて、どんな人かしらと心はときめいておられましたのに、涙を流されたと思えば、内まで入っていかれるとは、頼りになられると思っていましたのになどと言い合うばかりでした。一方姫君【吉野の姫君】たちは近く参る女房どももなく逃れることもできませんでしたが、中納言【姫君】は乱暴な素振りもせず、ただ親しげでしたので、わたしまでもが騒いではと、心を落ち着けて、姉宮【吉野の大君】が、「隔てないとは、こういうことでしょうか。あなたが申しておられたのは。情けのないことを」と中納言を哀れみました、中納言【姫君】は「何も心配することはありません。わたしが世にある限りは、何を置いても心を尽くして、お世話したいと思っていますのに、わたしを避けているようで、不安でしたから、ただ隔て心なくわたしが姫君たちに親しみをいだいていることを、知ってほしくて」と申して、なだめました。


続く


by santalab | 2014-10-23 19:44 | とりかへばや物語

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