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Santa Lab's Blog


「とりかへばや物語」巻一(その100)

おかしかりける人の様かなと、思ひ出られて、御文聞こえ給ふ。

今の間も おぼつかなきを たちかへり 折りてもみばや 白菊の花

と、世の常めきたるを、むげにさやうに取り成し気色けしきばむを、姫君は、あいなく人の気配けはひのなつかしうあはれなりつるに、そこはかとなくうち語らはれつるを、今ぞいかなりつる事ぞと、浅ましく恥づかしきに、心地さへたがひて思え給へば、御返りも聞こえ給はぬを、人々いみじくかたはら痛がり聞こゆれど、「かならずさしも聞こゆべき事かは」とて、止み給ひぬ。




中納言は姫君【吉野の大君】に興味を覚えて、思い出しながら、文を贈りました。

今も、大君【吉野の大君】を思い出して心は落ち付きません。すぐにでも戻って、手折りたい、白菊の花よ。

と、まるで後朝きぬぎぬの文のようでしたので、取り次ぐ女房もびっくりした様子でしたが、姫君【吉野の大君】は、ただ中納言【姫君】に親しみを覚え中納言が悲しげに思えて、とりとめのない話をしただけのことと思っていましたので、どういうことかしらと、今さらながらどうなることかと恥ずかしく、また思いもしなかったことでしたので、返事もできませんでした、女房どもは心配して返事を書くように勧めましたが、「返事は必ずしなくてはいけませんか」と言って、書こうとしませんでした。


続く


by santalab | 2014-10-23 20:12 | とりかへばや物語

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