おかしかりける人の様かなと、思ひ出られて、御文聞こえ給ふ。
今の間も おぼつかなきを たちかへり 折りてもみばや 白菊の花
と、世の常めきたるを、むげにさやうに取り成し
気色ばむを、姫君は、あいなく人の
気配のなつかしうあはれなりつるに、そこはかとなくうち語らはれつるを、今ぞいかなりつる事ぞと、浅ましく恥づかしきに、心地さへ
違ひて思え給へば、御返りも聞こえ給はぬを、人々いみじく
傍ら痛がり聞こゆれど、「かならずさしも聞こゆべき事かは」とて、止み給ひぬ。
中納言は姫君【吉野の大君】に興味を覚えて、思い出しながら、文を贈りました。
今も、大君【吉野の大君】を思い出して心は落ち付きません。すぐにでも戻って、手折りたい、白菊の花よ。
と、まるで
後朝の文のようでしたので、取り次ぐ女房もびっくりした様子でしたが、姫君【吉野の大君】は、ただ中納言【姫君】に親しみを覚え中納言が悲しげに思えて、とりとめのない話をしただけのことと思っていましたので、どういうことかしらと、今さらながらどうなることかと恥ずかしく、また思いもしなかったことでしたので、返事もできませんでした、女房どもは心配して返事を書くように勧めましたが、「返事は必ずしなくてはいけませんか」と言って、書こうとしませんでした。
(続く)