中納言も、さらなることは聞こえさせん方なく、「かかる御住居も移ろはし聞こえ侍らんとなん思ひ給ふる」と聞こえ給へば、「そは、ただ今、しかゆくりなからんことは、御ためも人聞き便なく侍りなん。かくながらも、思し捨つまじき様にだに思ひ侍らば、後ろめたき思ひは慰み侍ぬべく」など、契り交して、御贈り物に唐土よりもて渡り給へる、世になくこの世に伝はらぬ薬ども、ある限り奉り給ふ。
中納言【姫君】も、あまりにも別れ難くて、「宮【吉野の宮】のお住まいを都に移して差し上げたいと思っております」と申せば、吉野の宮も「それはありがたいことですが、今すぐというのは、あまりに軽はずみではないでしょうか、あなたにとっても決してよいことにはなりません。ただ、あなたが我が姫君たちのことを見捨てるお気持ちをもっておられないことを、わたしの心の慰めといたします」と、契り交わして、贈り物として吉野の宮が唐より持ち帰った、世に二なく日本には伝わっていない薬を、ある限り中納言に贈りました。
(続く)