少将殿、度々歌など詠み給ひけり。
年を経て 思ひ染めてし 片岡の まつの緑は 色深く見ゆ
ほどもなき 松の緑の いかなれば 思ひ染めつつ 年を経ぬらむ
三の君も、同じく、かくなん、
千代までと 思ひ染めける 松なれば 緑の色も 深きなりけり
姫君も、
慎ましながら、
子の日して 春の霞に 立ち交じり 小松が原に 日を暮らすかな
車より下り給ひて遊び給ふ御有様を見参らせ給ふにつけても、少将、この世にいかに永らへてあるべしとも思え給はず、心憂くて、人目も知らぬほどにぞ悲しみ給ひける。
少将殿は、何度も歌を詠みました。
年をまたいで想い続けた、片岡の松(姫君)の緑の黒髪は、誰よりも美しく見えましたよ。
萌え出たばかりの緑の松枝ですが、いつまで想い続けて待ち続ければ、摘むことができるのでしょう。
三の君も、同じように、歌を詠みました、
永遠に思い続ける松ですから、緑の色が深いのも当然のことでしょう。
姫君も、控えめに、
子の日遊びをして春の霞に交って野辺を歩き、少将殿の待つ小松原で、一日遊びましたわ。
姫君が車から下りて、遊ぶ姿を見るにつけても、少将は、叶わなかった姫君のことを思い、この世に永らえていられるとも思えないほど、ただつらくて、人目も気にせず悲しむのでした。
(続く)