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Santa Lab's Blog


「とりかへばや物語」巻一(その108)

右の大殿には、四五日と言ひ置き給しに、十余日まで音もせず掻き籠もり給へりつるを、おぼつかなく、怪しき事に思ひ嘆き、大臣は物も参らず思し嘆きたるを、女君は我ゆへかくのみ物を思すと、いとおしく悲しきに、常に心細げにて世の中にあり果つまじき様にのみ思ひ給へる人なれば、いかに思しなりにけるぞと、いみじくよろづに思ひ乱れ騒ぐをも知らず、宮の宰相は、これをよき隙と、泣く泣く焦がれ惑ひ給ふを、心弱く導き聞こゆる夜な夜なを、心憂しと思ふ方は方として、これこそはまことに深き心ざしなめれと、思ひ知られ行く。あはれも浅からずうちなびき、腹などいとふくらかにうち悩み、思ひ乱れたる人様の、限りなくいみじきを、忍びつつほのかに見る宰相の心惑ひぞ、ことはりなる。




右大臣殿では、中納言【姫君】が四五日と言って出かけたのに、十日を過ぎても音沙汰なしで吉野に籠もっているのはどういうことか、何かあったかと、心配して、右大臣は食事も喉を通らないほどに悲しんでおりましたが、女君【四の君】はわたしのせいでこうなってしまったと、右大臣をあわれに思い悲しんで、中納言はいつも心細そうでこの世にあることを悲しむような人ですから、何を思っていることかと、ひどく思い詰めるのでした、一方宰相中将はそんなことは露知らず、いい機会だと、泣く泣く左衛門【女房】に四の君が恋しくてたまらないと懇願するので、左衛門も同情して宰相中将を手引きする夜な夜な、四の君はつらく思いながらも、宰相中将こそ本当の愛を知っているのでしょうと、思わずにはいられませんでした。恋い焦がれる人というのは、限りなく思いを寄せるものですが、人の目を忍んでわずかに四の君と逢う宰相中将の心惑いは、当然のことでした。


続く


by santalab | 2014-10-24 20:34 | とりかへばや物語

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