人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「松浦宮物語」二(その2)

后、宗と頼み給へる臣下を召し寄せて、重ねてはかりごとを定め給ふ。「燕のいくさの矢先を恐るるによりて、愚かに都のさかひを出でぬ。蜀山しよくざんさがしきを頼みて、わづかに人の命を助けむとするに、道とほ人疲れて、あなたの軍すでに近付きにたり。言ふかひなき道のかたはらに宿りて、狩場の出でたる挊木かせぎの如くに命を亡ぼさむこと、同じ身のはぢと言ふ中に、思ふところなく、人の世まで語り伝へられむ事は、各々いたみ思はざるべしや。同じ失はむ命を、なほひとかた思ひるところありて、あたの謀を乱らむ事、いかがすべき」とのたまふに、さらに謀を出だしわきまへ申す人もなし。おもての色々変はり、言葉こゑを失ひて、思ひ惑へる様、まことに事きはまりて見ゆ。后、重ねてのたまふ。




后は、とりわけ頼りにしている臣下を呼び寄せて、重ねて策を講じられました。「燕の軍兵の威力を恐れて、愚かにも都の境を出ました。蜀山(現中国四川省)は難所で敵から逃れることも出来ると頼みにして、少しでも多くの人を助けたいと願いましたが、道は遠く人は疲れて進みかねているうちに、敵軍はすでに近付いております。道の傍らで仮宿りする身となって、狩場に出た挊木(鹿)のように徒らに身を亡ぼせば、同じ恥とは申せ、思いもしないことでしょうが、後の世まで語り伝えられることにもなりましょう、各々恥ずかしいとは思わないのですか。同じく失う命ならば、今一度面目を致し、敵に一矢を報いるべきです、何か案はありますか」と申されましたが、誰一人策を申し上げる人はいませんでした。皆顔色を変え、言葉を失い、落ち着きを失って、何も思い浮かばないようでした。后は、重ねて申されました。


続く


by santalab | 2014-10-28 21:17 | 松浦宮物語

<< 「松浦宮物語」二(その3)      「松浦宮物語」二(その1) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧