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「増鏡」久米の佐良山(その26)

今年は祭りの御幸あるべければ、めづらしさに、人々常よりも物見車心遣ひして、予てより桟敷さじきなどもいみじう造れり。使ひどもも、いかで人に勝らむと、かたみにいどみかはすべし。本院・新院・広義門院くわうぎもんゐん一品いつぽんの宮も忍びて入らせ 給ふなどぞ聞こえし。御車寄せには、菊亭の右の大臣おとどの御子実尹さねまさの中納言まゐり給へり。殿上人も、良き家の君達きんだちども、色りたる限り、いと清らに好ましう出で立ちつかうまつれり。御随身みずいじんなども、花をれる様なり。出だし車に、色々の藤・躑躅つつじの花・なでしこ・かきつばたなど、様々の袖口こぼれ出でたる、いとえんになまめかし。




この年は祭り(賀茂祭=葵祭。下鴨神社と上賀茂神社で、陰暦四月の中の酉の日に行なわれる例祭)の御幸があられるというので、珍らしさに、人々は常よりも物見車に気を配り、あらかじめ桟敷([祭りの行列や花火の見物 などのために、道路や川などに面してつくる仮設の席])などを美しく造っておりました。使いの者たちも、なんとかして人に勝ろうと、互いに張り合っておりました。本院(第九十三代後伏見院)・新院(第九十五代花園院)・広義門院(西園寺寧子やすこ。後伏見院の女御)・一品の宮(北朝初代光厳くわうげん天皇)も忍んで入られた聞こえました。車寄せ([車を寄せて乗降するために玄関前に設けた屋根付き部分])には、菊亭右大臣(今出川兼季かねすゑ。太政大臣)の子であられる実尹中納言(今出川実尹)が参られました。殿上人も、良家の君達たちも、色を許された限り、たいそう清らかでりっぱな出で立ちでございました。随身([従者])なども、花を折ったように華やかでございましたよ。出だし車([女房・女官が出だし衣を飾りとして乗った牛車])から、色々の藤・つつじ・卯の花([ウツギ])・なでしこ・かきつばたなど、様々な花が袖口からこぼれ出て、艶やかで優雅でございました。


続く


by santalab | 2014-11-06 08:30 | 増鏡

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