また元亨の乱れの初めに流されし資朝の中納言をも、いまだ佐渡の島に沈みつるを、このほどのついでに、かしこにて失なふべき由、預かりの武士に仰せければ、この由を知らせけるに、思ひ設けたる由言ひて、都に止めける子の許に、哀れなる文書きて、預けけり。すでに斬られける時の頌とぞ聞き侍りし。
四大本無主 五蘊本来空 将頭傾白刃 但如鑚夏風
いと哀れにぞ侍りける。
また元亨の乱れ(元亨四年(1324)に起こった正中の変)で流された資朝中納言(日野資朝)は、まだ佐渡島におりましたが、このついでに、かの地で誅すべしと、預かりの武士に命が下りましたので、これを知らせると、かねてより思っていたことと答えて、都に止め置かれた子の許に、悲しみの文を書いて、武士に預けたのでございました。資朝中納言が斬られる間際に言い残された頌([詩句])とお聞きしております。
四大([人間の肉体])というものはそもそも移し身(空蝉)に過ぎず、五蘊([存在を構成する五つの要素])が存在しないようにわたしもなかったのだ。頭を白刃([鞘から抜いた刀])の前に差し出せば、ただ夏風を切るように振り下ろされるだけのこと。
たいそう悲しい言葉でございました。
(続く)