正応元年三月十五日、官庁にて御即位あり。このほどは、香園院の左の大臣師忠関白にておはしき。その後、近衛殿家基、また九条の左大臣忠教、その後、また近衛殿返りなり給ひき。なほ後に、歓喜園院など、いと繁う変はり給ふ。下り居の御門を、今は新院と聞こゆれば、太上天皇三人世におはします頃なり。いと珍しく侍るにや。
正応元年(1288)三月十五日、伏見天皇(第九十二代天皇)が官庁で即位されました。この度は、香園院左大臣師忠(二条師忠)が関白でございました。その後、近衛殿家基(近衛家基)、また九条左大臣忠教(九条忠教)、その後、また近衛殿(近衛家基)がおなりになられました。その後に、歓喜園院(鷹司兼忠)と、頻繁に変わられました。下り居の帝(第九十一代後宇多院)は、今は新院と呼ばれましたので、太上天皇が三人(第八十九代後深草院、第九十代亀山院、後宇多院)世におられた頃のことでございます。たいそう珍しいことでございました。
(続く)