年改まりては、霞行く空の気色、梅の香・鶯のさへづりも、やうやう気色殊なるに、まして思ふ事多く眺め明かせど、朝には衙鼓の声を聞きて、各々急ぎ参るに暇なくて、朝廷私、夕べにぞいと静かなれば、例の如く、文の心など説かせて聞こし召しつる人々、かたへは退きぬれど、細やかなる御物語などありて、急ぎも罷り出でぬほどに、日暮れぬ。
こうして年も改まり、霞がかる空の景色、梅の香・鶯のさえずりも、すっかり春の気配でした、弁少将の悩みはまして募りましたが、朝の衙鼓([時を告げる役所の太鼓])の音を聞いて、各々急ぎ内裏に参るに暇なくて、朝廷私事も、夕べには静まり、いつものように、書の心など説く人々も、ほとんど御前を下がりましたが、帝は弁少将と親密に話されて、急ぎ内裏を退出する頃には、日が暮れました。
(続く)