「かばかりも よなよなみゆる ゆめならば わかれのみちを たれかいそがむ
かうはかなき雲の
行方ばかりには、立ち止まる頼みやははあらむ」とのみ恨むれど、「秋風をだに待たぬ別れの道には、ありか定めぬ
海人の名乗りも増して」とつれなければ、恨みは尽きぬものから、言ひ知らぬ思ひのみ増さりて、さらに許さぬおのが衣々を、
互に思ひ侘びて、「さらば、かばかりは
今宵も」と頼むるも、はかなき慰めなり。
「これほどに夜な夜な思い悩むほどに恋しく思っているのに。別れの道を急ぐ者がいるとでも。
けれど雲のように行方も知れないあなたを、この国に留まる頼みにはできない」とばかり弁少将は恨めしそうに言うと、「秋風さえ待つことのない別れの道を思えば、居場所も知れない海人のようなわたしの名を知らせることはできません」とつれなく答えました、弁少将の恨みは尽きず、言葉に言いようのない悲しみばかりまさり、ただそれぞれの衣を、互いに心の支えにして、「せめて、別れ行くその日まで」と頼みにしても、慰めにはなりませんでした。
(続く)