また、迫り痴れたる大学の衆の言ふやう、「あはれ、書に言へるやうは、『得難き女を得むとせむやうは、世界に、不屑、整はず、家、竈なくして、便りなからむ人、道のことに於きては、職事にも入り、登省し、及第し、学問料賜はり、かく返す返す、物は序を越さず出で立つべきものなり、しかあるを、才ある者は沈め、無才の男は先に立つ、かくの如き人の嘆きを除き給はば、人の嘆き、願ひ満つべし』となむ、文書に言へる。まことに、しかある物なり」。親王の君、「まことに、しかあるべき物なり。数多の人の喜びをなさむに、我が一つの願ひ満たじやは」とのたまひて、道の人の沈める才をば、朝廷にも申し、博士どもに仰せ、「家所なく、食物なき人のために」とて、銭、衣、米、車に積みて出だし立て給ふ。官得べき人の沈みたるを求めさせ給ひて、我が御荘は皆賜ふ。
また、生活に窮し世間に疎い大学の者たち(官僚候補生)が言うには、「そうですね、書物に書いてあるには、『手に入れがたい女をものにしようとするのは、世の中で、必要な物も、揃えられず、家や、かまどもなく、頼る人もいない者が、学問の道で、職を得て、試験に受かり、及第し、学問料をいただき、これを繰り返して、順を追って出世していくようなものだと、けれども世の中では、才能のある者をさし置いて、無才の者が先に出世していきます、このような立場にある者の嘆きを取り除けば、あなたの嘆きも、願いが叶うにちがいありません』と、文書に書いてあります。本当に、そうあるべきです」。上野の宮は、「まこと、そうであるべきであろう。多くの者たちに喜びを与えなくては、わしのただ一つの願いも叶わない」と申して、陽の目を見ない才能を持つ者を、朝廷にも推挙して、博士(文章博士、教授ですね)にも命じて、「住むところもなく、食べ物もない者たちのために」と、金銭、着物、米を、車に積んで送りました。本来官職を得るはずの不遇の者たちを探させて、上野の宮の荘園もみんなその者たちに与えました。
(続く)