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「増鏡」今日の日影(その6)

女房のよそひ、押し並べて皆蘇芳すはうの張り単襲ひとへがさねくれなゐ引倍木ひへぎ・濃き袴・蘇芳の表着うはぎ青朽葉あをくちばの唐衣・薄色の三重襷みへだすき、上下同じ様なり。まゐり給ひぬれば、蔵人左衛門権佐俊光としみつうけたまはりて、手車の宣旨あり。殿上人参りて御車引き入れ、御せうとの中納言公衡きんひら、別当兼ね給へり。うへの御をひの左衛門督通重みちしげ、御兄になずらうる由聞こゆれば、御屏風・御几帳きちやう立てらる。御座ござへ御車寄せらる。御ふすま、二位殿参らせ給ふ。御台参りて、やがて夜の御殿おとど詣上まうのぼり給ふ。この御衾は、京極院きやうごくゐんのめでたかりし例とかや聞こえて、公守きんもりの大納言、沙汰しまうされけるとかやうけたまはりしは、まことにや侍りけん。三箇夜のもちひも、やがてかの大納言沙汰しまうさる。内のうへの、夜の御殿おとどへ召して入らせ給へる御草鞋さうかいをば、二位殿取りて出でさせ給ひて、大納言殿と二人の御中に抱きて寝給ふと聞こえし。先々もさる事にてこそは侍りけめ。




女房の装いは、皆蘇芳([黒味を帯びた赤色])の張り単襲([裏をつけずに、袖口・裾などのへりって仕立てた単衣ひとえぎぬを数枚重ねること])・紅の引倍木([あこめ=中着。の裏を引きはがして仕立てた夏用のひとへの衣])・赤色の袴・蘇芳の表着([衣を重ねて着るとき、一番上に着る衣])・青朽葉([青みを帯びた朽葉色])の唐衣([装束の一番上に着用する上半身だけの短衣])・青色の裳([腰部から下の後方だけにまとった服])・三重襷([斜線を交差させた中に菱を入れ、 さらにその中に花菱や四つ菱を入れた文様])、上下とも同じ姿でございました。女御(西園寺鏱子しようし)が参られると、蔵人左衛門権佐俊光(日野俊光)がこれを知らせると、手車の宣旨([てぐるまの宣旨]=[車に乗って内裏に出入りすることを許されること])がございました。殿上人が参って車を引き入れました、兄である中納言公衡(西園寺公衡)が、別当([長官])を兼ねておられました。上(中院顕子あきこ。西園寺鏱子しようしの生母)の甥の左衛門督通重(中院通重)も、兄(西園寺公衡)と同じく扱われるように命じられて、屏風・几帳が立てられました。昼の御座([天皇の昼間の座所])に車を着けられました。衾([夜具])は、二位殿(中院顕子あきこ)が参らせました。御台([飯・菜などを盛った器をのせる長方形の台])が参り、やがて夜の御殿([天皇の寝所])へ上られました。衾は、京極院(第九十代亀山天皇皇后、洞院佶子きつし)の吉例とか申されて、公守大納言(洞院公守)が、取り計らわれたとお聞きしましたが、本当でございましょうか。三箇夜の餅([結婚当夜から三日間にわたって御殿にお祝いの餅を供えられる儀式])も、やがて公守大納言が計らい申されました。内の上(第九十二代伏見天皇)が、夜の御殿へ召して入られた草鞋([わらじ])を、二位殿が取られて、大納言殿と二人で抱いて寝られたということでございます。前々もそのようにされていたとお聞きしました。


続く


by santalab | 2015-01-31 08:37 | 増鏡

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