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「宇津保物語」藤原の君(その58)

三月ばかり、御まへの花の盛りに、花の宴し給ひけるに、行正ゆきまさうた作り、遊びもしければ、君達の御衣おんぞかさね賜ひけるも、思ふ心ありけれども、その日にはあれで、宮あこ君に言ふほに、「君に、いささかなること聞こえむ。人にのたまふな、行正を思ほさば」。宮あこ君、「なほ、のたまへ。人にも言はじ」とのたまふ。行正、

「四方の海に 玉藻かづきし 海人しもぞ 荒れたる波の 中も分けける

おほけなき心、憂きものになむ」と書きて、宮あこ君に、「これ、中の大殿おとどの姫君に奉り給ひて、御返り言取りて、持ておはしませ。さらずは、御笛も習はし奉らじ」。宮あこ君、貴宮に奉らせ給ふ。「がぞ」とのたまふ。「まろに笛習はし給ふ人のなり」と言ふ。「めざましのことや」とて、見給はず。「なほ、見給ひて、御返り賜へ」とのたまひて、「今、言はむものぞ」とて、泣きののしり給ふ。あて宮、「かかる人の返り言はせぬものぞ。ただ、『見せつれば、「めざまし」となむ言ふ』とをのたまへ」。あこ君、「さらば、まろに笛習はさじをや」など泣き給ふ。今宮、「幼き子に文を取らせて、淵瀬も知らず責めさするは、賢きわざかな。『「聞きにくし」とて、見よ』とすめりかし」とのたまふ。




三月には、貴宮の殿の御前が花盛りとなって、花の宴が催されましたが、行正(良岑行正)は、漢詩を作り、遊びもして、女君たちから御衣一襲を賜りました、行正には思うところがありましたが、その日は何もなく、またの日宮あこ君に言うには、「君に、ちょっとしたことを頼みたいのです。人に話してはなりません、わたしのことを思っているならば」。宮あこ君は、「わかりました、話してください。人には話しませんから」と答えました。行正は、

「四方の海を藻をかき分けて渡った海人(行正)ですから、ライバルが多くて荒れた波の中でも、きっと漕ぎ果すことでしょう。

恐れ多いことですが、心苦しいのです」と書いて、宮あこ君に、「これを、中の大殿の姫君(貴宮)に渡して、返事をもらって、持ってきてください。そうでなければ、笛を教えてあげませんよ」。あこ君は、文を貴宮に届けました。貴宮は「誰からですか」と訊ねました。あこ君は「わたしに笛を教えている人からです」と言いました。貴宮は、「あきれたもの」と言って、文は見ませんでした。あこ君は、「ちゃんと、文を見てください、返事をください」と言って、「今、返事をください」と、泣き叫びました。貴宮は、「このような文には返事はしないものですよ。ただ、『文を見せると、「あきれました」と答えた』と言えばよいでしょう」。あこ君は、「そんなことを言えば、わたしに笛を教えてくれません」と泣き叫びました。今宮(朱雀帝の皇女)は、「こんなに幼い者に文を遣らせて、分別もわからず貴宮を責めさせるのは、賢い者のすることでしょうか。『きっと「文を見なければ、かわいそう」と、見るにちがいない』と思ってのことでしょう」と言いました。


続く


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by santalab | 2015-03-18 12:06 | 宇津保物語 | Comments(0)

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