女房怪しみて、『将軍、虎に喰はれけるや』と問へば、龍、涙を流し、膝を折り、泣けども叶はず。我が胎内の子は、父を害する敵なり、生まれ落ちなば捨てんと、日数を待つところに、月日に関守なければ、程なく生まれぬ。見なれば男子なり。いつしか、捨つべき事を忘れ、取り上げ、名をかふりよくと付けて、もてなしけり。名将軍の子にて、胎内より、父虎に喰はれけるを、安からずに思ひ、敵取るべき事をぞ思ひける。
女房は怪しんで、『将軍は、虎に喰われてしまったのですか』と訊ねると、雲上龍は、涙を流し、膝を折って、泣きましたがどうしようもありませんでした。女房の胎内の子は、父を殺した敵です、生まれ落ちたならば捨てようと、日数を待ちましたが、月日に関守なければ、ほどなくして子は生まれました。見れば男の子でした。いつしか、捨てることを忘れ、子を取り上げて、名をかふりよく(李敢?)と付けて、かわいがりました。名将軍の子でしたので、胎内より、父が虎に喰われたことを、無念に思い、敵を取ろうと思っていました。
(続く)