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「曽我物語」箱根にて暇乞の事(その10)

御分をとこになり給へば、今は見参げんざんには入りたくはなけれども、心ざしを思ひ遣られて、あはれなるぞとよ。祈祷きたう頼もしく思ひ給へ。この法師ほつしが息のかよはん程は、明王みやうわう責め奉らんに、何の疑ひかあるべき」とのたまひける。時致ときむねうけたまはりて、「おほかたじけなけれども、更に野心の儀はさうらはず。御不審のでう、もつともにて候へども、恐れ奉りてまゐらぬなり。狩り場よりのかへりには、参るべく候ふ。または、思し召し合はする事も候ひなん」とて、罷り立ち、さらぬていにはもてなせども、今を限りなれば、忍びの涙を流しける。別当べつたうも、縁まで立ち出で給ひて、はるばる見送りつつ、名残りしくぞ思はれける。兄弟きやうだいの人々は、駒に鞭を上げて、急がれける程に、三嶋近く成り、




お主が男になったからには、会うことも叶わなかったが、心中が思い遣られて、哀れに思っておったぞ。祈祷を頼もしく思われよ。この法師の息の通ううちは、明王の責めも力を添えてくださる、何の疑いもなかろう」と申しました。時致(曽我時致)はこれを受けて、「仰せは忝うございますが、まったく野心はございません。ご不審は、もっともなことでございますが、恐れ多いことと参らなかったのでございます。狩り場よりの帰りには、再び参りましょう。また、思い出されることもございましょう」と申して、罷り立ち、さらぬ体にもてなしましたが、今が限りのことでしたので、忍びの涙を流しました。別当(行実ぎやうじつ僧正)も、縁まで立ち出て、遥かに見送りつつ、名残りを惜しみました。兄弟(曽我祐成すけなり・時致)の人々は、馬に鞭を上げて、急ぐほどに、三嶋(現静岡県三島市)近くになりました、


続く


by santalab | 2015-05-06 18:39 | 曽我物語

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