されば、大王、玉楼金殿に至り、常に遊覧す。ある時、大講堂の柱に、鼬二つ来たりて、泣き騒ぐ事、七日なり。大王、怪しみ給ひて、博士を召して、占はしむるに、考へて、奏聞す。「この柱の内に、七尺の人形あり。大王の形をことごとく作り移して、調伏の壇を立て、幣帛・供具を供へたり。割りて見給へば、とうい七百人あり。滅ぼすべし」と言ふ。即ち、大王上人に申して、めでたき聖を請じ奉り、かの柱、割りて見給ふに、違はず、すさまじきと言ふも余りあり。
そして、大王は、玉楼金殿を訪ねては、常に遊覧していました。ある時、大講堂([講堂]=[経典を講義したり、説法したりする寺院の建物])の柱に、鼬が棲みついて、鳴き泣き騒いで、七日となりました。大王は、怪しんで、博士を呼んで、占わせました、博士は占って、大王に奏聞しました。「この柱の中に、七尺(約2.1m)の人形があります。大王の姿そっくりに作り、調伏([害意のある者を修法により撃破すること])の壇を立て、幣帛([神前に供える物の総称])・供具([神や仏への供え物])もあります。割ってご覧なさいませ、とうい(東夷=古代中国で、東方に住む異民族に対する蔑称?)が七百人います。滅ぼすべきです」と言いました。すぐさま、大王は上人に伝えて、高徳の聖を集めて、この柱を、割って見れば、博士の言葉通りでした、恐ろしいと言うにも余りあるほどでした。
(続く)