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「曽我物語」泰山府君の事(その3)

やがて、壇を破り、勘文かんもんに任せて、色々のしよ人を集め、その中に、怪しきを召し取り、拷問がうもんしければ、事々ことごと白状はくじやうす。よつて、七百人の敵をことごとく召し取り、三百人の首を斬り給ひぬ。残り四百人斬らんとする時、天下てんが暗闇に成りて、夜昼のさかひもなくして、色を失ふ。人民にんみん道路だうろたふれ伏す。大王だいわう、驚きていはく、「我、露ほどのわたくしありて、彼らの首を斬る事なし。しもとしてかみあざけ下剋上げこくじやう戒め、後の世を思ふゆゑなり。もしまた、我に私あらば、天これを戒むべし。これを量らん」とて、三七日、飲食おんじきを止めて、高床に上り、足の指を爪立てて、「一命、ここにて消えなん。もし誤りなくは、諸天あはれみ給へ」と祈誓して、仁王経にんわうぎやうを書かせられけり。




たちまち、壇を壊し、勘文([天皇・院などの上意を受け、その裁断の資料として先例・故実を考査して提出する答申書])に任せて、色々のしよ人(職人=律令制で、省に属し、寮・司の上に位する役所の官人?)を集め、その中から、怪しい者どもを捕らえて、拷問すると、すべて白状しました。こうして、七百人の敵を一人残らず捕らえて、三百人の首を斬りました。残り四百人を斬ろうとすると、天下は暗闇となって、夜昼の区別も分かず、光を失いました。人民は、道路に倒れ伏しました。大王は、驚いて申すには、「わたしは、露ほども私心のために、彼らの首を斬るのではない。下の者が上を背く下剋上([下の者が上の者に打ち勝って権力を手中にすること])を戒めるため、後の世を思ってのことである。もしまた、我に私心あらば、天はこれを戒めるであろう。どうすればよいか願を立てよう」と申して、三七日(二十一日間)、飲食を止めて、高床に上り、足の指を爪立てて、「もし私心あらば我が一命は、ここで消えよう。もし真実ならば、諸天よ慈悲を与えよ」と祈誓して、仁王経(『仁王般若経』)を書きました。


続く


by santalab | 2015-05-12 08:32 | 曽我物語

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