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「曽我物語」鬼王・道三郎帰りし事(その3)

道三郎だうざぶらううけたまはりて、「かへさうらふまじ、聞こし召せ、君をばの内より、それがしこそ取り上げ奉りては候へ。されば、九夏きうか三伏さんぷくの暑き日は、あふぎの風を招き、玄冬けんとう素雪そせつの寒き夜は、衣を重ねて、はだへを暖めまゐらせ、胆心も尽くし育て、月とも、星とも、明け暮れは見上げ、見下し、頼み奉り、御世にも出でさせ給ひ候はば、誰やの者にか劣るべき。頼もしくも、いとほしくも思ひ、奉り、今まで影形の如く、付き添ひまゐらせたるしるしに、情けなく落ちよとうけたまはる。たとひ罷りかへりて候ふとも、千年万年を保ち候ふべきか。ただ御供に召し具せられ候へ」とて、いとけなき子の親の跡を慕ふ如くに、声もしまず泣きたり。兄弟きやうだいの人々も、心弱くぞ見えける。




道三郎はこれを聞き、「帰ることはできません、お聞きくださいませ、君を乳の頃より、わたしが見守って参ったのでございます。そして、九夏三伏([夏の、最も暑い土用の頃をいう])の暑い日は、扇で風を招き、玄冬素雪([雪が降る寒い冬の日])の寒い夜には、衣を重ねて、膚を暖めて、胆心を尽くし育て、月とも、星とも、明け暮れに見上げ、見下し、頼みとし、世に出られることを、誰にもまして願って参ったのでございます。頼みにも、いとおしくも思い、大切にして、今まで影のように、付き添って参りましたのに、情けなくも落ちよと申されますか。たとえ帰ったとしても、この無念は千年万年消えることはございません。ただお供に付けてくださいませ」と申して、幼い子が親の後を追うが如く、声も惜しまず泣きました。兄弟の人々(曽我祐成すけなり時致ときむね)も、哀れに思いました。


続く


by santalab | 2015-06-02 17:38 | 曽我物語

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