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「曽我物語」五朗御前へ召し出され、聞こし召し問はるる事(その6)

ややありて、君おほせられけるは、「この事、曽我の父母に知らせけるか」。五朗ごらううけたまはりて、「日本につぽんの大将軍の仰せとも存じさうらはぬものかな。当代たうだいならず、いづれの世にか、継子けいしが悪事くはたてんとて、いとま請ひ候はんに、『神妙しんべうなり、急ぎ僻事ひがことして、我惑ひ者になせ』とて、出だし立つる父や候ふべき、また、母の慈悲は、山野のけだもの江河がうがはうろくづまでも、子を思ふ心ざしの深き事は、父には母は勝れたりとこそまうし候へ。いはんや、人界にんがいに生を受けて、二十余りの子どもが、命死なんとて、母に知らせ候はんに、急ぎ死にて物思はせよと、喜ぶ母や候ふべき。御景迹けいしやく」とぞ申しける。「さて、親しき者どもには、如何に」。「身貧にして、世にある人々に、かくと申し候はんは、ただ手を捧げて、これを縛らせ、首を延べて、これを斬れとこそ申し候はんずれ。たれかは頼まれ候ふべき。愚かなる御諚ごぢやう候ふかな」とぞ申しける。




ややあって、君(源頼朝)が申すには、「この事を、曽我の父母には知らせたか」。五朗(曽我時致ときむね)はこれを聞いて、「日本の大将軍の仰せとも思われぬお言葉です。当代はもとより、いずれの世に、継子が悪事企てようと、暇を請うに、『よくぞ申した、急ぎ僻事([悪事])を成して、我を惑い者([浮浪人])にせよ』と申して、出で立たせる父がおりましょう、また母の慈悲は、山野の獣、江河([揚子江と黄河])の鱗([魚類])までも、子を思う心ざしの深さ、父に母は勝れていると申します。申すまでもなく、たりとこそまうし候へ。人界に生を受けて、二十を過ぎた子どもが、死のうとして、母に知らせたなら、急ぎ死んで悲しませよと、よろこぶ母がおりましょう。景迹([推察])くださいませ」と申しました。「ならば、親しい者どもには、どうだ」。「身貧にして、世にある人々に、そのような事を申すのは、ただ手を捧げて、縛られ、首を延べて、斬れと申すようなものでございます。誰を頼りにできましょう。愚かな御諚([仰せ])でございます」と申しました。


続く


by santalab | 2015-06-07 13:57 | 曽我物語

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